三谷龍二

読みもの

朝はバターケースと

 ずうっと長年、バターケースとの相性か悪かった。
朝一番、食卓にのせるバターケースはこざっぱりと美しく、いつも清潔であって 欲しい。一日の始まりを迎えるにふさわしく、すがすがしくいきたい。けれども、どうにもうまくいかない。これなら、と見つけた厚手の透明なフランス 製も、結局はお役後免となった。ガラスの内側のあちこちにバターが白くこびりつき 、外から見ただけでなんとなく汚らしい。ならば、とテーブル専用の小さな磁器の容 器に少しずつ入れ足す方式に替えて見た。今度は一回ずつすっきりこぎれいだけれど 、いちいちバターを補充する作業が面倒くさくて・・・・。とそんなわけで、わが「バター問題」は解決せぬまま、むやみにずるずる年月を重 ねてきたのだった。ところがある日・・・。

 そのバターケースはヤマザクラでつくられたもので木目の美しさ、道具にふさわし い堅牢(けんろう)さ、汚れのつきにくいち密な肌合いを兼ね備えている。バターの 脂肪分を適度に吸収し、それが少しずつ味わいのあるあめ色に変化していく。また、 なんといっても木の手触りのすがすがしさが心地いい。木工作家・三谷龍二さんの手によるこのケースに出会って以来、長年の懸念はつい に解決した。いやそれどころか、使うほどに風格を増す風情は、木の「うつわ」と呼 びたくなるほど。そんなわけで、気がついたら朝、パンを食べる機会がぐんと増えていた。


平松 洋子
1999年4月3日(土) 日本経済新聞(夕刊)にて
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